dextablog English study for business & life abroad

「たった30分」が、30万円になった朝の話。|海外生活しくじり|空港編

Travel 海外生活 海外駐在

“ちょっとだけ寝よう”

…その一言が、すべてを狂わせた。

もくじ

万全のはずだった、出発前夜。

「ふう…30分だけ寝るか」

——それがすべての間違いだった。

日本へ出張を終えて、
ブリュッセルへ戻る日の前夜。

翌朝のフライトが7時40分発だったので、
空港隣接のホテルに宿泊。

パスポートよし。
財布よし。
荷造りも完了。

——何も問題ない…はずだった。

“30分だけ”…それが運命の分かれ道。

いつも通りの自分なら、
ここからベッドに潜り込んで、
ぐっすり眠っていた。

……でもこの日は違った。

(フライトの3時間前、
4時すぎに起きるのはつらいな…。

飛行機の中で寝れば時差ぼけも直るし、
今日は寝ずに、たまった仕事を片付けよう。)

カタカタカタ…。

静かな部屋に、
ノートパソコンのキーボードを叩く音だけが響く。

コーヒーをすすりながら、
デスクにかじりつき、気づけば夜が明け始めていた。

「ふう…疲れたな。」

出発まで少し時間があったので、
ちょっと休憩するか…とベッドの上に横たわる。

「30分だけ休むか…」

アラームをセットし、ゆっくりと目を閉じる。

——この判断が、運命の分かれ道だった。

目覚めたとき、すべてが終わっていた。

「……ん?」

部屋に差し込む朝日。
ふと、時計に目をやると——

7時23分。

「……え?」

一瞬、時が止まる。

そして、脳が理解した瞬間、

「うわぁぁぁぁあああ!!!!」

叫びながら飛び起き、
顔も洗わず、髪もボサボサのまま、
スーツケースを引きずってホテルのエレベーターに飛び乗る。

ドタドタドタ…
カウンターへ全力疾走。

が——

「チェックインは、終了いたしました。」

……詰んだ。

冷静かつ、非情なひとこと。

誰もいないカウンターの前で、
僕は一人、呆然と立ち尽くしていた。

ラスト1席のチケット、まさかの価格。

「どうする?今日中に日本に戻らなければ…」

次の日から家族旅行へいく予定だったので、
何が何でも今日中に帰らなければならない。

冷や汗をダラダラ流しながら、
ブリュッセルの自宅へ帰る方法を考える。

そのときの僕はもう、
映画『ミッション・インポッシブル』の世界。

スマホを開き、各社のアプリを行ったり来たり。

「よし、これだ…!」

電光石火のごとく別便を調べ、
別の航空会社のカウンターに駆け込む。

「あ、あと1席だけ、空いております…」

スタッフのお姉さんが引き気味に、
チケットの購入方法を教えてくれた。

必死の形相で訴えていたときの僕はもう、
完全にゾンビのような顔をしていたと思う。

「ただ、少々お値段の方が…」

チラッと画面を見せられたその額。

30万円。

チーン……。

でも、この便を逃したら終わる。

何よりも家族旅行が台無しになる。

妻に怒られるより、
家族のがっかりした顔を見るのが一番つらい。

…震える手でカードを差し出し、
人生で最も高額な“寝坊代”を支払った。

この日、僕が学んだこと。

——チケットを購入し、飛行機へ無事に搭乗。

隣に座った女性に、
僕がこの席に至るまでの話をした。

女性はクスクスと笑いながら、

「えー!30万円もしたんですか?
私、この席15万円もしなかったと思うけどな…」

そりゃそうだよな。
出発直前で残り1席しかなかったら倍にもなるさ…

——この日、僕は学んだ。

「“30分だけ寝よう”は、命取り」

だってこと。

海外旅行前の“ちょっとだけ寝よう”は、まさに悪魔のささやき。

「余裕を持った行動」って、
こういう時に使うんだって、骨身に染みた。

飛行機が離陸し、窓の外に目を向ける。
空の上から見える朝日で雲がオレンジ色に染まり、
とてもキレイだった。

——ああ、やっと、間に合ったんだ。
これで無事に、ブリュッセルへ帰れる…。

ようやく落ち着きを取り戻し、僕はゆっくりと目を閉じた。

——その後、

フィンランドのヘルシンキを経由し、
無事、ブリュッセルの自宅へ到着。

疲れた体を引きずりながら、
寝坊した反省と、別便で戻ってきたことを妻に正直に話す。

すると彼女は笑顔で一言。

「あら、別にあなたがいなくても、私と娘だけで先に行けたのにw」

……世の中って、厳しいんだな。

おまけ

——ちなみに、

自腹で払った30万円、ダメもとで会社にも報告。

上司からは、

「お前、ほんとバカだなw」

と鼻で笑われながらも、相談してみるって言ってくれた。

その後、いくつもの承認の関門をくぐり抜け、
なんと最後はヨーロッパの会長決済まで上り詰めた。

そして、下された判断は

「半額だけ補償する。残り半分は反省すること」

だった。

いくつもの関門をくぐり抜けたおかげで、
ドイツ本社とベルギー支店で僕は、

「寝坊したのに、チケット代を半分回収できたヤツ」

と知れ渡り、しばらくの間イジられることに。

全然いい。半分返ってきただけで、全然いい……。